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さんかくけいのきょうふ

三角形の恐怖

海野 十三

「無線電話」1927(昭和2)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,969 字 · 24 页

青空文庫

いやに血走っていました。

私は相手が既に私を知っているかどうかを考えました。若し細田氏が邸の前に不審な挙動をして徘徊する私を窓越しにでも見覚えているものとすれば、私が彼に近付いたとき大きな声でも立てられて「この学生は曲者だから、ふん縛れ!」などと喚かれでもしようものなら大変だから、逃げた方がよいと思いました。そうで無くて細田氏が私を例の三角形事件と結び合わして承知していないのなら、私は平然と狂犬の如き氏の横をすれちがって通るのがよい。たとえ理由なくとも、今向うからやって来る氏の顔を見て逃げ出したのでは錐のようになっている敏感な氏は瞬間に万事を悟って誰彼の容赦なく、忽ち狂犬の如く咬みつくことであろう。そう思うと流石に私も進退谷まって、いつの間にか往来に立ち停ったのでした。

其の時でした。不意に横丁から笛と太鼓と鉦との騒々しい破れかえるような音響が私の耳を敲きました。と早や私の身体を前に押し出すようにして私の前に躍進したのは、近所の寄席の番組がわりでも触れて歩くらしい広告屋の爺さんで、背中には赤インキで染めたビラを負い腹に釣った大きな太鼓の前には三角の広告旗を沢山つけ、背中のうしろからのび上った竿の先に身体を全体を蔽うかのように拡げてとりつけられた紅白だんがらの花傘の上にまで、一面に赤い三角旗を樹てまわして