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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
仲間の一人で、東京下りの口の達者なのを、酔わせて彼の小屋へ遣った。巧く喋りつけて、ちっとは手心をするようにやって来いとでも云われたのだろうけれども、あいにく少し酔いすぎていたので、その男は、彼の顔を見るとすぐ、先ず江戸前の巻舌で、悪態をついた。
「おめえさんの家になるじゃああるめえし、そんなにやいやい云わねえだって、するだけのこたあ憚(はばか)んながら、俺等も玄人だ、ちょん髷爺の世話んなって、堪るものか」
と云うのを聞いた三郎爺は、仁王のようになって、暫くその男の顔を睨めつけていたが、いきなり酒の酔も何も醒めはてるような声で、
「貴様あ、明日から来てもらうめえ!」
と怒鳴りつけたきり、しおしおとその男が出て行くまで、くるりと後を向いたまま頭一つ動かさなかった。
けれども、大工の方では、つい酔っていて済まなかったくらいで、機嫌を直せるつもりで、翌朝ものこのこと仕事に出て来た。
そして、ニヤニヤしながら世辞を云おうとすると、彼はわざと皆に聞えるような大声で、
「おめえ一人が、つい酔ったまぎれの悪態なら、俺あ、勘弁すらあ、が、今度なあ、そうでねえから、許されねえ。