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シャンハイされたおとこ

上海された男

牧 逸馬

「新青年」1925(大正14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,665 字 · 18 页

青空文庫

「それは真実ですか、それは」

「白ばくれるな!」と刑事が呶鳴りつけた。

「本署へ引致する前に証拠物件を捜索せにゃならん。前へ出ろ!」

すると「サカモト」と羅馬字の彫られたジャック小刀が為吉の菜葉洋袴の隠しから取出された。

「そいつは違う」と為吉は蒼くなって言った。

「黙れ!」刑事は指の傷へ眼を付けた。

「其の繃帯は何だ、血が染んでるじゃないか。兎も角そこまで来い、言う事があるなら刑事部屋で申立てろ、来いっ」

がやがや騒いでいる合宿の船員達を尻眼に掛けて、引立てられる儘に為吉は戸外へ出た。

小春日和の麗かさに陽炎が燃えていた。海岸通りには荷役の権三たちが群を作して喧しく呶鳴り合って居た。外国の水夫が三々五々歩き廻っていた。自分でも不思議な程落付き払って為吉はぴたりと刑事に寄り添われて歩いて行った。もう何うなっても好いという気だった。擦れ違う通行人の顔が莫迦莫迦しく眺められた。自分のことが何だか他人の身上のように考えられた。只これで当分海へ出られないと思うとそれが残念でならなかった。

払暁海岸通りを見廻っていた観音崎署の一刑事は、おきん婆あの船員宿の前の歩道に夥しい血溜りを発見して驚いた。