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「したじき」のもんだい

「下じき」の問題

宮本 百合子

こんにちの文学への疑い

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,838 字 · 20 页

青空文庫

、こんにち日本の文学の空虚さに作用していると考えられる。

このことは、「俘虜記」から「武蔵野夫人」への大岡昇平についても考えられることではないだろうか。スタンダリアンであるこの作家の「私の処方箋」(群像十一月号)は、きょうのロマネスクをとなえる日本の作家が、ラディゲだのラファイエット夫人だの、その他の、下じきをもっていて、その上に処方した作品をつくり出していること、或は歴史性ぬきの下じきを使用することをあやしまないならわしをもっているという事実で、むしろ、こんにちの世界文学をおどろかせ、奇異の思いを抱かせることではないだろうか。

そして、活溌な批評家と見られている人たちが、作者がだまって机の下に入れている「下じき」を見抜いて、それはラディゲであるとか、或はフローベルであろうかとか、当てものが一つの文学の仕事であるならば、それは文学的クイーズであるにすぎないだろう。

日本のきょうの文学、しかも西欧的なものを意欲していると云われる人々の文学にあるこの奇怪な顛倒と時代錯誤への屈従、追随こそ、批評家を無力にし、骨抜きにしている。別の云いかたをすると、戦後の批評家の多くは、その人自身、国内亡命をしていた人々であり、作家と同時代人としての、同じ精神の習癖をもっている。