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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

――あの世に行きさえすれば、年を取ってくれば、もうそれしか考えられない。

「何事も、何事もジッと、ジ――イと堪えることじゃ!」

坊さんはそれを繰りかえした。

キヌ

健はキヌが帰ってきたことを知らされた。

「やッぱし小樽だ、あの恰好な! 大家の御令嬢さ。田舎の犬ば、見なれないんで、吠えるべ。――村の青年団もこれア一もめもめるべよ。」

健は笑いもしなかった。

キヌのことは別に頭になかった。――戻ってきたから、どうなる、どうする、今更そんなことでもなかった。

「キヌちゃ戻ってきたワ……?」

節がそれだけを健に云うのに、吃った。――眼が健の顔色を読んでいる。

「馬鹿!」

健は節の唇を指ではじいてやった。

節は一寸だまって、――と、

「そう?――まア、嬉しい!」

急に縄飛びでもするように跳ねて、かけ出して行った。――後も見ずに。

健は二、三日してから、嫌な噂をきいた。――キヌが妊娠している、相手は大学生だとか云っていた。それでホテルにも居たたまらず、「こっそり」帰ってきたのだった。

父はキヌを家に入れない、と怒った。――キヌは土間に蹴落された。ベトベトする土間に、それでも手をついて、「物置の隅ッこでもいいから」