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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
考えられなかった。
模範青年
「見れ、武田の野郎、赤い徽章ば胸さつけて、得意になって、やってる、やってる!」
七之助が演壇の方を顎でしゃくった。――阿部はだまって笑っていた。
「な、健ちゃ、青年同盟だ、相互扶助会だなんて云えば、奇妙にあのガキガキの武田と女たらしの、ニヤケ連中が赤い徽章ばつけて、走って歩くから面白いんでないか。――健ちゃみだいた模範青年やるとええにな。」
健はひょいと暗い顔をした。
「笑談だ、笑談だ! ハハハハハハ。」
――健は役場から模範青年として、表彰されていた。その頃は、まだ丈夫だった父親が「表彰状」をもって、どうしていいか自分でも分らず、家のなかをウロウロしたことを覚えている。――健も自分の努力が報いられたと思い、嬉しかった。
ところが一寸経って、健と小学校が一緒だった町役場に出ている友達が、健に云った。――近頃農村青年がともすれば「過激な」考えに侵され勝ちで、土地を何百町歩も持っている地主は困りきっている。丁度村に来ていた岸野と吉岡が、町役場で、そんなことで相談したのを給仕のその友達が聞いたのだった。
「表彰でもして、――情の方から抑えつけて、喜んで働かして置かないと、飛んでもなくなる。