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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

と云われると、真赤になった。

「武田」

会が始まった。

「開会の辞」で武田が出た。如何にも武田らしく演壇に、兵隊人形のように直立して、演説でもするように、固ッ苦しい声で始めた。聞きなれない、面倒な熟語が、釘ッ切れのように百姓の耳朶を打った。

――……この危機にのぞみ、我々一同が力を合わせ、外、過激思想、都会の頽風と戦い、内、剛毅、相互扶助の気質を養い、もって我S村の健全なる発達を図りたい微意であるのであります。

――……なお、此度は旭川師団より渡辺大尉殿の御来臨を辱うし、農場主側よりは吉岡幾三郎氏代理として松山省一氏、小作方よりは不肖私が出席し、ここに協力一致、挙村円満の実をあげたいと思うのであります。

七之助は聞きながら、一つ、一つ武田の演説を滑稽にひやかして、揚足をとった。

「武田の作ちゃも偉ぐなったもんだな。――悪たれだったけ。」

健の前に坐っている小作だった。――「余ッ程、勉学したんだべ。」

七之助が「勉学」という言葉で、思わず、プウッ! とふき出してしまった。

「大した勉学だ。――※と地主さん喜ぶべ。円満円満、天下泰平。」

健とちがって、前から七之助にはそういう処がある。