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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

」

由三はやりたかった。然し今迄一度だって「ドンドン」を買って貰ったことがなかった。――由三はだまっていた。

「無えのか?」

「由どこの姉、こんだ札幌さ行ぐってな。」

一人が軒下から、雨の降っている道へ向けて、前を腹迄位まくって小便をしていた。

「誰云った?」

「誰でもよ。んで、白首になるッてな!」

「んか、白首にか!」

「白首か! そうか!」――皆はやし立てた。

由三はそれが何のことかハッキリ分らなかった。分らないが、いきなりヒネられでもした後のように、顔中がカッと逆上せてきた。

「夕焼け小焼けに日が暮れて……」――女の子が三、四人声を張り上げて歌っているのが、遠くに聞えていた。

由三は急にワッと泣き出した。

「泣くな、え、このメソ!」

グイと押されて、ランプの台を落してしまった。少し残っていた石油が、雨に濡れた地面にチリチリと紫色の波紋をつくって広がった。――皆は気をのまれて、だまった。

「あーあ、俺でもないや、俺でもないや。」――少し後ずさりして云い出した。

「俺でもないや。」

「うえ、お前えだど。――お前えでないか!」

「俺でもないや。」

「俺でもないや、あーあ。