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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

感じた。――健を見ると、軽く顎だけを、それも顎の先きだけを、分らない程に動かした。

「田口健です。」吉本が取次いだ。

「ウ――これか?」

一寸管理人を見て、それから側に坐っていた奥様と令嬢へ、「これが農場一の模範青年なんだぜ。」と云った。

「まア、しっかりやってくれ。――これからお前達が一番頼りだんだからな……。よしよし。」

そう云って顎だけを動かした。――管理人はもう次ぎを呼んでいた。

それだけ、それだけで終ってしまった。

健は身体中汗をグッショリかいていた。健は阿部と顔を合わせられなかった。カアーッと逆上せていた。――気おくれした、意気地のない自分を、紙ッ片れか何かのように、思いッ切り踏みにじってしまいたかった。

「のべ源」はもう酔払って、眼を据えながら、誰か相手でも欲しそうに見廻わしていた。

「健ちゃ、健ちゃ、健ッたら!」

健は返事をしなかった。

「健よオ! 何そったら不景気な面してるんだ。」

健はだまったまま、暗い外へ出て行った。

五

土方

大陸的な太陽が、ムキ出しな地面をジリ、ジリ焼いていた。陽炎が白熱した炎のように、ユラユラ立って、粗雑に敷設されたトロッコのレールが、鰻のように歪んで見えた。