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ふしぎなるくうかんだんそう

不思議なる空間断層

海野 十三

「ぷろふいる」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,651 字 · 30 页

青空文庫

それから、ここにある長いつけ髭をこういう具合につけてみる。そして顔に、この褐色の白粉を塗る。……さあよく鏡を見てごらん、その顔はどうだ。お前がもう一つの世の空間で持っていると信じていた顔に成っただろう、はっはっはっ」

――乃公は呀ッと駭いてしまった。正しくそのとおりだ。……しかし待てよ、やっぱり変だ。予審判事さんの手際はたいへん美事なようで、実はそうでない。彼は数学を知らないも同然だ。彼のロジックはちっとも合っていないのである。すなわち彼は、夢の中の髭茫々の乃公の顔にすっかり手を入れて置いて、いかにも現実の世の乃公の顔のように化粧して置き、それを黙っていたのだ。そして今、再び逆に、もとの夢の中の顔に仮装法を以て還元してみせたのだ。それでは予審判事さんの云っているような一方的の証明にはならない。やっぱり乃公はいま夢の中に居るんだ。

――と危いところで欺されようとして助かったよ。ねえ君、お互はやっぱり、いま夢の世の中に居るんだよ。……

そのとき入口の鉄扉がぎいーっと開いた。そして私の予期したとおり手錠をもった看守長に続いて、痩躯鶴のような典獄さんと、それから大きな山芋に金襴の衣を被せたような教誨師とが静々と入って来た。