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くねんぼ
九年母
青木 正児
「あまカラ 8月号 第六十号」甘辛社、1956(昭和31)年8月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,509 字 · 5 页
皮ごと竪に二つに割って、横に薄く切り、醤油を滴らして食うと、酒の肴に珍無類、仙気を帯びた異味となる。子供たちは酸っぱいと言って軽蔑し、あの香気の素晴しさを説いて、皮ごと食えと教えても決して食わない。なるほど実の酸っぱいのが玉に瑕である。
このことを山口である人に話して、京都の地味に合わないのだろうと言うと、その人が言う、「幾分そういう関係もあるでしょうが、九年母は蜜柑のように甘くはありませんよ。それは子供の時食べたものは何でも旨かったように思われるのですよ。私の亡父が永らく東京に住んでいて、山口県の楊梅(ヤマモモ)は旨かった旨かったと言いつめておりました。母が、それは子供の頃おあがりになったからですよ、あんなもの旨いはずはありませんよ、と言っても、頑として聴き入れませんでした」と、大笑いしたことがあった。楊梅は私の育った下関の家にもあったし、塩水に浸して虫を出してから食べさせられたもので、なつかしい味の一つであるが、今は山口でもその附近でも一向めぐり会わない。苺や桜桃の流布した今日、あのような野味は駆逐されるのが当然である。九年母にしても段々なくなっていくというが、いくらひいき目に見ても、ネーブルの敵ではない。