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くだん

九段

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页

青空文庫

碁における呉清源のように公式手合に不参加の大家というものが居ないのだから、万人がそう認めるのは当然だ。単に実力日本一では影が薄いこと夥しいから、名人の名に対抗しうる権利の象徴が必要だ。苦心サンタン編みだしたのが、九段決定戦。

昔は九段を名人と云ったものだ。もしくは、名人は九段に相当するものと考えられていたのである。しかし現在も昔の形式を守らねばならぬという必然的なものがある筈はない。碁の方にも名人でない九段が二人もいるのだから、名人のほかに将棋九段が現れてもおかしくはない。柔道は十何段ある。そこでトーナメントの優勝者に九段を与えることになった。

この企画は一応成功したようだ。棋士たちが九段という名に魅力を感じ、それに執着して戦局に力がこもってきたからだ。トーナメントの形式は従前通りほぼ変りはないのだが、名というものは理外の魅力があるものだ。勲章などもそうであろうが、勝負の世界はまた別で、相手をうち負かして一人勝ちのこった認定、そのハッキリした力の跡を九段の名で表彰されるのだから当人の満足も深い。棋士たちの間には新聞社私製の九段が何だ、と云う反旗を示す者があるにしても、九段位争奪戦というものがあって、当人もそれに参加して争って負けた以上は九段が何だと云えなかろう。