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ちぶさ

乳房

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页

青空文庫

「第三班ではその気なんだ」

若い従業員は短く答えて口を噤んだ。

「それなら」

のろのろものを云っていたその男は俄に居直ったように挑発的な声を高め、

「俺あ、絶対に、その案には反対だ!」

ひろ子はその声が、さっき自分が立ってゆくとき後の方から「異議なし」と彌次った声であるのをききわけた。

「異議なし!」

別の声が続いた。

「俺も反対だ! ここっきりなんぞでやって見ろ。馬鹿馬鹿しい。根こそぎやられて、それこそ玉なしだア」

ひろ子は全身の注意をよびさまされた。異議をとなえているものたちの間には妙に腹の合った空気がある。

「議長!」

「議長ッ!」

二つの声が同時に競り合って起り、甲高い方が一方を強引に押し切って、

「そりゃ違うと思うんだ」

と強く抗議した。

「二月の広尾のストのことを考えて見たって分ると思うんだ。部分的ストは可能だし、それがきっかけで全線立つ情勢は現実にもう熟しているんだ。そんなことは誰だって実際現場の様子を知っているもんには分ってるはずだと思う。さもなけりゃ、本部はどうしてああいう指令を出したんだ?」

「議長!」

万年筆だのエヴァシャープだのを胸ポケットにさしている年配のが、落着いたような声で云った。