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かんぱい

乾杯

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,788 字 · 18 页

青空文庫

上原稔は反対しました。

塚本老人は説きました。――山川家のためだから、まあ我慢して貰いたい。鋼板をそっくり転売してしまっても、職工たちに仕事が不足するわけではあるまい。真鍮の屑物が多量あるから、それを加工すればよかろう。また、たとい鋼板を扱って、各種の器物を製造するにしても、多くの熱量を要することだし、その辺の見通しが困難ではあるまいか。すべて山川家のためだから、よく考えておいて貰いたい。

その話、大旦那が亡くなったばかりのところではあるし、若旦那にはさし当り内分にとの話を、上原稔は山川正太郎に打ち明けてしまいました。

「私はただ、職工達を存分に働かしてやりたいと思っています。みな、立直った気持で、働きたがっております。鋼板は彼等の手に渡してやって下さい。同額の給与を貰っても、遊んでいるより働く方が本望だと、そういう彼等の意気を、私は涙の出るほど嬉しく思います。それで、お願いに出ました。」

額が晴れやかで、色が黒く肉のしまった、その上原稔の熱情は、山川正太郎にも伝わりました。けれどその時は、山川正太郎はただ次のように答えました。

「よく分りました。