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ふたつのいえをつなぐかいそう
二つの家を繋ぐ回想
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,480 字 · 37 页
けれども、切角林町で幸福に、深い感興を覚えて来ても、一歩家に入ると、Aの、何とも云えない険悪な、陰鬱な感情に充満されて居るのを見るのが、如何にも自分には苦しかった。
彼には、私が独りで彼方に行き、独りで相当に楽しく愉快にして来るのが、云い難い不快であるらしい。厭な、狭い、暗い顔をして机に向い、気のない声で私の「只今」に応え、思い知れと云う風をされると、自分は失望や悲しみで、猛然と掴みかかりたい激情を覚えるのだ。
若し自分が行くのが不愉快なら、何故フランクに行くな、と云って呉れないのか、
行かせたなら、どうして、もう少し寛大に、自分の娯んで来たことを悦んで呉れないのか、
其為に、行って来ても、受けた十の悦びを、一にも半分にも減して表情に顕す自分を自覚し、私は我ながらぞっとした。
Aが愉快そうでなければ結局、自分もしんから楽しくはなれない。然し、林町での心持よさは忘られない。その内心の鼓動を、Aの傷かない程度に表現しようと無意識にもする為、時には、些か迷惑であったことを誇大したり、ハアティーに笑って過した数時間を、詰らなそうに話してきかせたりすることが起ったのである。