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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そういう言葉は伸子に同感されるものだった。

「シェンション!」

という呼び声が、いろいろの若い女の声でほとばしるようにおこったときから、早川閑次郎は顎骨の張った面長な顔に、優越的な微笑をただよわせながらみんなを眺めていた。女学生の反駁をつたえられると、その表情は一層濃くなって、その顔つきはほとんど面白がっているようになった。早川閑次郎は、ふたたびゆっくり立ち上って話しはじめた。

「あなたがたが、お国の人の幸福のために熱心に努力なさるのは何よりです。私は十分皆さんの誠意に敬意を払います。しかし、文明といい、人智の啓発ということは、ものごとを複雑に理解する能力です。私は、あなたがたが、誠意の上に加えて、諷刺を理解する力をもたれることを希望します」

それは、また小柄な黒服の人によって通訳された。論争の中心点をそらした返答をうけて、女学生たちはしばらく沈黙した。やがて灰色っぽい綾織の服をきた、すこし年かさらしい一人の女学生が立って、努力して感情をおさえながら、自分たちが、中国を独立した文明国にしたいと願う心、民族を向上させたいと思っているこころは、諷刺の問題ではないと思う、といった。