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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

泰造への返事の手紙を書き終ると、稲田は伸子に珍しい写真画集を見せた。世界名画の中から、婦人画家の作品ばかりを集めたものであった。伸子はよろこんで、

「あら、ロザ・ボンヌール!」

「馬市」を見出して顔をかがやかした。父のもっている色刷りの名画集で、伸子は「馬市」を見て覚えていたのであった。その本には、ボンヌールのほかにマリ・バシキルツェフとかイギリスの婦人肖像画家とか伸子の知らないたくさんの婦人画家の傑作が集められていた。

「面白いですか」

「面白いわ、こんなに大勢女のひとの絵かきがいたのね」

稲田はぴたっとした坐りかたで、煙草をふかしながら、一枚一枚と頁をくっている伸子を眺めていた。やがて、

「伸子さん、その本あげましょうか」

といった。

「ほんと?」

「あげますよ。僕にはどうせいらないもんだから……。たかが女の絵かきなんて、どうせたいしたことはないんだからハハハハ」

伸子は、涙ぐむほど、傷つけられた。熱心に見ていたよろこびが嘲弄されたように感じられ、ぎごちない娘である自分がそれをよろこんでいることが恥しめられたように感じた。そんなに思っている本なんか、ちっとも貰いたくない。