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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

庭に一人向ってじっとしていると、伸子には、佐々の家も、この数年に、随分変って来たことがしみじみ感じられた。

変りかたは、眺めている客間の庭の様子にも反映していた。伸子が幼なかった頃の佐々の家は、家全体が茶室づくりに按配されていた。門からの入口も、台所へまわる細い道も、風雅につつましかった。それが、近頃自動車をおくようになってから、門からの細道は石だたみとなり、車庫の位置によって、台所への道がひろげられた。そのために、客間の庭の奥ゆきが何尺か削られた。もとは石燈籠と楓、松などの植えごみの裏に、人一人とおれるほどの砂利じきのゆとりがあって、ゆきとどいた庭のつくりであった。それは自動車の道のためにこわされた。植木屋がそれにつれて石燈籠を前の方へもち出してすえ直した。松の枝かげを失い、楓の下枝からむき出された燈籠に、納りをつけようと、無造作に青木が植えこまれていた。燈籠は、我からその位置を悲しむように、庭の真中へとび出て立っている。

伸子の父は、建築設計家であった。それだのに、どうして、こんな有様にしてしまって、みんながそれに無頓着で平気なのだろう。それは、この地味な八畳の土庇のついた室やそこの庭が、佐々夫婦のこの頃の生活気分から重要さと愛着とを失われていることを意味していると伸子は思った。