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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そういう点につっこんでゆけば、機智や毒舌で片づかないものがあり、そしてそれこそ人間らしいあれこれであるのに、それを掘りかえす勇気はなくて、相対的に――女に向って、優越めいた逆説をたのしんでいる種類の男を、伸子はいやだった。彼らの毒舌や逆説で、くやしがる若い女の声や態度は、彼らをたのしませるのだ。そうわかっていても、やっぱりくやしいことはくやしいし腹が立つことは腹がたつ。――

上野の五重の塔のいただきが森の上に見はらせる坂をゆっくりのぼって、伸子は同じ歩調でしずかな道をいそがず歩き、動坂の家の門をはいった。伸子は何となし視線をおとして門から玄関までの細くて奥のふかい石じき道を歩いていて、おや、と意外なものを見つけたように足をとめた。門を入って数歩のその足もとに大きい花の形にきられた石が、はめこまれていたのにはじめて目がとまった。五つの花弁の先はまるくコスモスの花に似た模様に石がはめこまれている。伸子は、その発見を非常にびっくりした。というのは、この石じき道ができたのは、もう数年前のことであり、伸子はそれから幾百度ここを通ったかしれないのに。――足もともそぞろに、せわしくこの家を出入りしていた自分の生活の姿が、まざまざと映しだされて、伸子は悲しく、すまなかったと思った。