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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「おや、よく来ましたね。さあこっちへおいで」

伸子は、父の坐っている座蒲団のはしに膝をつけるようにして坐った。

「どうなすった? お父様。この間、お誕生日にわざわざ花をもって来たのに――。黙って出張なんかなさるんだもの」

この間といっても、あのときからきょうまでには、もう二十日ばかり経っていた。

「うむ、あのときはね、急だったんでね」

「お帰りになったとき、まだバラがあった?」

泰造は、水牛の角でこしらえたトカゲの形の紙切りで巻紙をきりながら、

「あったようだよ」

そういうものの、はっきりとは思い出せないで、多忙な人らしいうっかりした調子で答えた。花から、伸子は、今ふんで来た石の花形を思い出した。

「門の石じきの模様ね、あれ、お父様がデザインなすったの」

「そうだよ」

「花の形を、あすこへ入れることも?」

「――いいだろう? 気に入りましたか?」

柿模様の火鉢のよこに、ついの小抽斗がついている。手をのばしてそこから封筒を出しながら、泰造がいった。

「門を入ると、花がある――わるくないだろう?」

門を入って来る幾人のひとが、花をそこに散らしたこころをくむだろう。伸子は、自分までが今になってそれに気がついたとは、いいかねた。