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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「何でもないことじゃありませんか、ちょっと顔を出して下さるぐらい――保だって世話になっているのに……」

伸子は、眼をそらした。白いレースの夜の窓がそこにある。苦しく心がひきしぼられた。また越智が来ているのだ。――

挽茶のような淡い緑の絽ちりめんの単衣羽織をきた多計代は立ったまま、いらだつように、

「いつもあなたは御自分のつきあいはあんなに大事になさるくせに――紳士というのは、そういうもんじゃないでしょう」

泰造の顔に、さっと血のけがのぼった。鋏を乱暴にテーブルの上へおきながら、

「俺はジェントルマンでなくていいんだ」

めったにない激しい調子でいった。

「俺は会わない。会うもんか。あんな家庭の侵入者に、俺が会う必要なんか絶対にない」

多計代の顔の上に困惑が現われた。

「そんな乱暴なことおっしゃって、私が困るばっかりじゃありませんか。せっかくお目にかかって御挨拶したいっていっていなさるのに」

「何の挨拶だ! この間のざまは何だ。人を愚弄して。ああいうつきあい法というものはありませんよ。会わなくて気に入らないなら幸だ。さっさと、今、すぐ、帰って貰おう」

威圧されたように多計代は黙った。