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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

大人たちの生活に軽蔑を感じた。十六歳の心は失われている。けれども、伸子は、午後出席した茶話会での早川閑次郎の話しぶりにしろ、ふれる生活のあらゆる面に、さっぱりとした人間の結合や接触の自然さがないことを息づまるように感じた。再び伸子は門の細道のしき石にちりばめられている花びらの形を思い出した。それから、東、西、我家ほどよきところなしと焼きつけられている真珠色の焼つけ硝子の窓を思った。その硝子は、食堂で父がどなった背後の煖炉わきの高い小窓にはめこまれているのであった。

スリッパで廊下を来る足音がした。きぬずれの音がした。伸子は、椅子から立ち、水道の栓をひねって、手を洗いだした。そこへ多計代が入って来た。

「おや、いたの」

多計代は伸子の肩の一端が映っている鏡に向って一寸自分を眺め、やがてセルロイドの盆から櫛をとりあげて、格別みだれていないいつもの大きくふっさりした庇髪をかきつけた。

「お父様はあれだから困ってしまう、すぐ真っ暗になって……」

越智は帰ったことが、多計代の話す調子でそれと察しられた。

「あの有様じゃ、何ごとかと思うじゃないか」

「…………」

伸子は黙っていた。