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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
黙って立っている伸子に、多計代は、
「食堂へ行くんだろう?」
ときいた。
「ええ」
多計代は、どうやら伸子と一緒の方が工合よい風で、つれ立って食堂へ行った。
珍しく保が、友人と回覧雑誌を出す計画のうちあわせで夕飯にかえらなかった。父の好物な豆腐のあんかけが出来ていた。それは伸子の好物でもあり、多計代はおくれてかえる保のために、
「保様がお帰りになったら、よくあつくしてあげてね」
とお給仕に念をおした。
幼いつや子が食堂から去ると、泰造、多計代、伸子の間に、さっきからつづいた気分がかえって来た。伸子は大テーブルの上のすこし離れた場所で夕刊をひろげていた。泰造は、煖炉わきのつくりつけの長椅子に、クッションを枕にして横になっている。多計代はいつもの、入口から正面の席で、薄い藤紫の地にすがぬいのある半襟のよくうつる顔をまっすぐに、いくらか胸をはるように坐っている。坐っている爪先が白い生きもののように落着きなく動いていることは、多計代の繁いまばたきの工合でしれた。
しばらくそうしていて、やがて多計代がその沈黙にたえられなくなったように、
「お父様」
さ、ま、というところに力を入れて泰造を呼んだ。