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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
そのことには大きい背景として、そういう当時の日本の経済のふくらがりと、建築家として父の活動場面の拡大とがあったのであった。二十の伸子は、それらの複雑な関係について何も理解していなかった。自分としては、親の指図や干渉からはなれた暮しの中で、人間として育ちたい気持が一杯なだけであった。ニューヨークで、佃という東洋語を専攻していた人と結婚した。唐突だったその結婚も、伸子とすれば一人立ちになりたいという一貫したその希望からであった。伸子は、主としては母親が計画している「よいお似合い」の社交的結婚を心から恐怖した。伸子が真面目に思っている文学の仕事は、そういう結婚生活からは生れない。そのことは、女である伸子には本能的にわかった。同時に結婚しなければいつまでつづくかわからない「大きいお嬢様」の生活の苦痛ときまりわるさとは、十八歳からの二年間で、伸子は知りつくした。
伸子は一昨年から女友達の吉見素子と暮しはじめた。佃との結婚はこわれた。いますんでいるのは駒沢だけれども、結婚していた五年間、おそろしいもがきのつづいていた間、伸子が佃とすんでいた家から逃げ出して何日か、或は何ヵ月かを過したところは、育った佐々の家の中ばかりではなかった。