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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
ただそれがわたしに向っていえないだけだと思ったのよ。それがかわいそうと思ったのよ。でも、それは間違っていたんですもの。……」
多計代は、深い吐息をついた。そして思い沈んだ表情ながら落ちついて、
「ほんとに私もよく考えよう……ありがとうよ」
そういいながら、とられていた伸子の手の中から自分の手をしずかにひっこめた。
十三
何という奇妙なこころもちだろう。
朝から素子は牛込の本屋へ出かけて、森閑としている駒沢の家の庭には、きらめく初夏の日光が溢れた。柘榴のこまかい葉の繁みは真新しい油絵具の濃い緑のように濃く、生垣越しのポプラの若木の梢は軽いやわらかな灰緑色に、三角形の葉をそよがせている。目のとどくいたるところに伸子の愛好する爽やかな新緑の濃淡がかがやいていた。それは、花の季節よりゆたかに自然の美しさを感じさせる。伸子は机の前から、そういう庭の景色を眺めていた。そこには日一日と緑の諧調を変化させているまばゆい初夏の庭がある。伸子の眼はそのまばゆい緑をじっと眺め、まばゆさのために瞳孔を細くちぢめているほどだ。だのに、伸子が外景からうける感じは変に黒かった。