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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そして靴をはきかけているところへ、母がうしろの階段から下りて来た。そして階段の中途から、多計代の来ていることに気づかなかった泰造が靴をはきながら、女中の肩に手をおいているのを見た。多計代は、そのまま部屋へ戻ってしまった。急に気分がわるくなったといって動かない多計代を、主人側に気の毒がった泰造がやっとなだめて出席させ、以後は、決してそういうことはしない、と誓約したというのである。

「とても私はそんな侮辱をうけてだまっちゃいられないよ。男ってどうしてああなんだろう。あんまり日本の女に見識がないから、男はこわいものなしでいい気になっているんだもの」

多計代は、女性の威厳として、痛烈にそういった。そのとき伸子は、宿屋の女中とふざけて、と父についていう母の平気さを変に思った。酔っぱらいの大きらいな伸子は、そういう場合につかわれるふざけるという言葉を、酔っぱらいについたものとして感じ、それは父に似合わしくなく思えた。一方では宿屋の女中を、そんなに自分と対立する女として感じる母の見識というものに疑問も感じた。そういう気分で宿々に泊る母の旅心は窮屈であったろうし、同行する父にとってもかさだかであったろう。