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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
その意味で、多計代がやかましくいう純潔の裏がえされた面には、暗闇で息をのみ眼を大きく見開いているような女の経験があるのではなかろうか。
いつだったか、父と母との結婚記念写真が出て来たことがあった。三十歳を越したばかりで髭を立ててフロック・コートを着て立っている白面のおとなしい泰造の横前に、房つきビロードの丸椅子にかけて島田に結った多計代がいる。写真には白っぽく写っている立派な衣裳の二枚重ねに、黒ちりめんの羽織を着て、膝にあげた片方の袂のなかに片手をかくしてうつされている。その花嫁の眉つき、レンズに向けられているまなざし、紅をさした口もとの締り工合、どこにも羞らいやうれしさがなかった。陰気で、けわしくさえ見えた。伸子は、しげしげと眺めながら、
「このお母様は、あとの写真ほど美人じゃないわ、なぜかしら」
といった。全く、それから小一年たったあと、浴衣で、夜会巻でとっている多計代の七分身の写真には、におやかさ、ゆたかさが映っているのであった。
「これねえ」
しんみりとして多計代も、昔の俤を眺めかえしていたが、
「私としちゃ、記念写真をとるどころの気持じゃなかったんだもの、かわいそうに」