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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そして誰でも知っている“To be or not to be”というせりふをいった。丸まっちいからだの、禿げている頭の丸いハムレットが、紺の毛足袋の短い足を組みあわせ、血色のよい、髭のそりあとの見える東北人らしい顔を傾けて、To be or not to be と煩悶するのは、なんと滑稽なみものだったろう。伸子は手をうって笑った。

「オフェリアはいつ出て来るの? お父様、オフェリアを出してよ、わたし出るわよ」

と、ふざけた。

「あいにくだが、ここまでおそわったらアーヴィングのところへお客様が来ましたよ。オフェリアは出ずじまいさ」

「お父様ったら! でたらめばっかり!」

多計代が長椅子にかけて、おかしそうに更にそれよりもいら立たしそうに白い足袋の爪先を細かく動かしながら非難した。

「お父様ったら、なんでもかんでも茶化しておしまいになる」

悲壮な重々しい情熱を好む多計代には、ハムレットをそうやって遊ぶ泰造の気分や、それをよろこぶ娘の伸子の気分が、人生へのまじめな感情にそむいたものと感じられるのであった。

関東の大震災の後、復興のために自動車の輸入税が一時廃止された。