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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子は、保の肩をつかむように、

「あんな人にかれこれいわれて、それがなにかだなんかと思ってたら、それこそとんでもありゃしない。――あんな……」

偽善的なといいかけたその先は言葉が出なくて、伸子はただくい入るように保の眼をみつめた。伸子のそういう激しい言葉づかいにたいしても、保はあらわな反撥も、好奇心も示さず、じっと平静にきいている。伸子の性質にとって、それはもどかしく苦しかった。保は、いつも素直にきいている。でも決して自分というものをあい手に向って解放しない。伸子のいうことも一つ一つと、不思議な粘りづよさで漉して、きいている。むしろ心を動かされることを警戒してきいている。伸子は、そういう保に向って自分の心が溢れるとき、まるでせまい壜の口から一滴ずつ油でも流しこんでいるときのような息苦しさを感じるのであった。

「ね、保さん」

紺絣の太った膝に手をおくように伸子はいった。

「いいことっていったって、そんなに永劫不変な型に入った絶対のものがあり得る? 生活は絶えず動いているのに……あとからあとから新しい条件が出来て来るのに――。いいことっていったって、それは、わるいとわかっていることを否定したり、それをなくしようとして闘ってゆく、そこに生れるんじゃない? いつだって、そうだわ、実際は。