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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
素子は、そのときはっきりと感じた。何かの機会が、二人の間から去ったということを。素子は、素子らしく、
「畜生! どうしたんだろう、このあくび!」
とわが身をつねるように罵るそばから、あくびはとまらず、青年は、おだやかに慰めた。
「疲れたんですよ。――よっぽど疲れたんだ」
しかし、何かの機会はすぎてしまった。
余りあくびが出つづけて妙にからだがくたくたに力抜けしてしまった素子は、その岩のところまで戻って来た一行と合流し、みんなにたすけられて宿へ戻った。
「しゃっくりというものは、二十四時間つづくと死ぬっていうが、あくびはどうですかね、そういうことはないんだろうね」
奄美大島生れの、髭の濃い教授は、それが若い女性であるということで一層こころもとなさそうに、まだときどきぱふと口をあけては苦しそうにあくびをしている素子をかえりみた。
「若いご婦人は笑いがとまらない、ということはきいているが、――どうも……こういうこともあるものかな」
医者のよびようもなくて、おいおい素子のあくびはおさまった。それから数年をへだてて素子はまたその青年とあった。そのときは仙台であった。