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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「一人でいったら?」

伸子は、何となしおっくうだった。伸子が小説をかいたりするせいもあって、友達となるのは大抵の場合その家の主人であり、そこの細君のこころもちに向ってくばられる神経が伸子として、多くの場合二重の負担だった。主人であるひとと話がはずめばはずむほど、伸子は細君にたいして愛想よくなくてはならない自分を感じた。そして、細君との話題は、主人であるひととの話題とはまるでちがった内容で、素子のように「男のような方」と思われていない伸子はそれが重荷なのであった。現実には、素子の方が、食物のことだの、着物のことだのを遙かにくわしく知っているのに――。

「ぶこちゃんも行くっていってやるよ、いいね、十日に――」

ハガキをかきながら素子は、

「ぶこちゃんのひっこみ思案は、謙遜からじゃなくて、傲慢からさ」

といった。

「だからどしどし、ひっぱりだしてやるんだ」

約束した日の午後、素子と伸子とは一旦新宿でおりて、小川豊助のところへもってゆく手みやげを買った。

「タバコにしよう」

素子が新宿駅のプラットフォームを歩きながらきめた。

「自分じゃなかなか気ばれないもんだから」