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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「ばかにしてる!」

と、おこった。

「現代小説なら、いくらでも出したいんですが、だとさ。――これだから、ろくな翻訳家が出ないんだ、きわものばっかり追いまわして……」

出版戦国時代という言葉が文芸批評のなかにさえ出て来たほど、予約の大規模な出版競争が行われていた。

「現代のものだって、つまらないのがあるのに――『太陽の根蔕』みたいに――」

「そうさ!」

ポリニャークというロシアの新しい作家が前の年日本へ来た。そして、秋山宇一そのほか無産派と云われる芸術家やロシア文学紹介者たちと日本見学をして、見聞記をかいた。それが訳され、「太陽の根蔕」として出版された。その本は、作者がどんな観察者であるかということを知るには役だったが、日本の現実を報告するという点では、日本の読者にも、従ってロシアの読者にはなお更役に立たないものに思えた。ちがった意味でのフジヤマ・サクラにすぎなかった。

素子は、行ったさきざきで、例のロシアへの国賓出発の噂話をきくらしくて、内輪のとり沙汰までつぎつぎと伸子にもつたえられた。それらの話はどれも、小川豊助の家の二階で感じたと同じ悲哀を伸子に感じさせるばかりであった。