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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

つや子の学校も夏休みになり、近日中に、東北の田舎の家へ出かける、その仕度であった。

伸子は、真夏のひるねからさめた新鮮な顔つきでそこへ出て行った。

「いつお立ち?」

「四五日うちには立たなくちゃなるまい」

「ことしは誰が行くの」

「さあ……ともかくわたしは出かけるよ、またあせもがこわいから」

多計代は糖尿病をもっていた。あせもがよって、悪化して、大変苦しんだことがあった。それから、夏の間は東京にいないことになっているのだった。

「お父様はだめ?」

「それゃ、一寸はおいでになるだろうけれどね、例のとおり忙しいから――保さんは来るよ」

そういえば、伸子が来たときから保が見えなかった。

「保さん、うち?」

「ああ」

満足そうに多計代は、

「あのひとは相変らずさ、よく勉強している……この節は毎朝六時すぎに出かけて、ドイツ語に通っているよ」

フランス語の文丙にいる保がドイツ語をはじめた、ということは一応高等学校の上級生らしいことであった。けれども伸子は、ドイツ語ときくと、そこに越智を連想され、ひいて、保の日頃から思弁ぐせにつらなって考え、単純にきけなかった。保は、このごろも越智のところに出入しているのだろうか。