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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子は、
「ひととひととのいきさつには、きっと、はたではわからないようなこともあるものなんでしょう」
自制して、おだやかにいった。
「私にはわからない事実というものもあるんだろうと思います。でもね、遠藤さん、あなたは相川良之介という人を愛していたの?」
「それは愛していましたわ。家庭で、どんなにあの方が孤独だったか知っていたのは、私一人ですもの」
「それなら、そういう話を、あっちこっちもって歩いて、わけもわからないひとに、それを信じろなんていう必要はないと思うわ」
こんどは、絢子がだまった。
「わたし、あなたが、そういうことをいって歩くのを考えると苦しいわ」
伸子は、しばらくだまっていて、やがて、
「やめた方がいいわ、おやめなさいよ、ね」
といった。
「少くともわたしは、もうききたくないわ。いい?」
また、間をおいて、
「世間は冷酷ですからね、あなたの気がどうかしている、というのがおちよ」
遂に伸子は、とことんのことをいった。絢子は、じっと伸子のいうことをきいていた。そしてそろそろとかえり仕度をはじめた。
「ほんとに、そうですわ」
顎を掬い出すようにしてまたうなずいた。