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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子は自分のからだばかり不思議にぬれずに、季節の橋の上に横たわっているような心持がした。庭の夏草の根を洗って流れる水は、床の下に淙々と流れている。

夜なかのこの豪雨を、やっぱり蚊帳の中によこたわりながらおそらく目をあいて聴いているひとがある。伸子は、そのひとのおとなしく七三にわけて結った髪の形を思った。そのひとは、つつましく化粧して白の喪服をきていた。亡くなった相川良之介が灰となって葬られているのはいいことだった。さもなければ、あの夫人は、この雨の音を、自分の悲しみの上に聴きしめていることは出来なかったろう。いとしいもののからだに流れる水を思えば、いるにいられない思いだったろう。

その豪雨は、宵の口からふり出した。昼間はポプラの梢の上に白雲の浮き出た空がギラついていた。その空が見上げられる縁側に椅子を出して、伸子がかけている。小卓をはさんだ向い側に、大柄の瀧じま明石に絽の帯をしめた大島のり子がいた。二人は初対面であった。のり子は、その頃女子学生のために開放された大学で哲学の勉強をしていた。そして、ピアノに堪能であるらしかった。

「下宿ぐらしといったって、ピアノまでもって行っていらっしゃるなら、いいわ。