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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

ほとんど同じくらいに学校についた。ハア、ハア息をはずませながら男の子たちは先生! 先生! 僕たち電車とかけっこして来たんですよ、と叫んだ。そしたら先生が偉い、偉い、とほめた。「でもお母様、僕、ほめるなんて変だと思うなア。そうでしょう? 人間より早いにきまっているから電車を発明したんでしょう。心臓わるくしちゃうだけだと思う、ね、そうじゃない?」子供の保はそう考えたのであった。

伸子は、今保と話していて、幼かったころの電車の一つ話をまざまざと思いだした。電車と男の子たちとのかけっこについて保の示した判断は、子供として珍しい考えかたに相違なかった。けれども、今、机の前にゆったりと掛けている青年の保が、同級生たちを批評している、その批評と同じように、本当のところもあるにはあるが、どこかでもっと大切なピントがはずれているように思えるのであった。

伸子には、自然と越智という人物と保との関係が思われた。保は越智を衒学的と思っていないのだろうか。議論のための議論をしない人と感じているのだろうか。師弟関係がなくてむしろ若い女の感覚で越智をうけとっている伸子は、彼を衒学的な上にきざな男と思っていた。