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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
一つの発展のうちにふくまれている矛盾そのものに、また次の発展の可能が用意され、進展には固定があり得ないということ、絶対がないということ、解決しきるということは現実にあり得ないこと、それらは、伸子を同感させ、そして実感に迫った。これまで伸子は、保がいつもくりかえす「絶対に云々」という観念をどんなに、うさんくさく思って来ただろう。いつもそれに抵抗を感じて来た。その抵抗によりどころがあったし、それが自然だったのだ。
伸子は毎日どっさりの時間をその本のためにさいた。部分部分ばかりにふれ、そこからだけ覗いて来たこの人間の社会というものを、その千変万化の複雑さのなかに、矛盾の根柢から解明して、歴史の発展してゆく必然の方向を導き出してゆく社会科学というものの方法は、全く新しい力で伸子の知識慾をみたした。
伸子は時々その感動を抑えきれなくなった。そして素子に、
「わたし、ほんとにうれしい」
と云った。
「まるで霧がはれてゆくみたい。一つ一つ山や森や河の景色が霧の中から見えて来るみたい。そうじゃない?」
「――」
「ねえ。あなたはそう感じない?」
「うるさいじゃないか、いまこれをしてるのに……」