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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「それゃよかった。企画としたって、あれだけ揃えるなら、そういうものも一冊はあるべきですよ」

素子は、ちらりと皮肉な笑顔をして、木下にウェストミンスタアをさし出しながら、

「でも木下さん、大丈夫ですか、あなたの一人合点で。――殿様はそうおっしゃいましたそうですが、と、あとから御用人が出るんじゃないんですか」

「相かわらず辛辣だなあ。――そんなことはない。大丈夫です。必ずひきうけました」

数年前、アメリカへ行ってしまっている村田壽子と素子は、昔、親しいつきあいがあった。素子が村田壽子の作品を選んで決定することになり、伸子は自分で、一番はじめに発表した小説と、最近単行本になりかかっている長篇とを入れることにきめた。

「それぐらい具体的になっていれば結構だ。じゃ、ひとつ楢崎さんの方へは、直接社から話させますから」

木下が去ったあとしばらく、伸子は、焦点のちったような視線を、テーブルの上に出ている灰皿の上におとしていた。

「ぶこちゃん! しっかりしてくれよ」

「だって、あんまり思いがけなくて……」

「ものがまとまるときってものは、こういうもんさ。だが、よかったね」

旅費のことで伸子はあんなに途方にくれ、思案にあまっていた。