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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

と日本語でいった。

「あちらに行けば、発音はじき立派になりますです」

そして伸子をかえりみ、

「あなたは? ロシア語わかりますか?」

ちょっと、名刺の面を見て、

「サッサさん?」

といった。

「わたくし、ロシア語はできません」

「しかし、サッサさんは英語話しますから不便ないでしょう」

素子が、いそいで、とりなすようにいった。

「そう、ソヴェトでもこの頃は英語がはやっていますからね」

パルヴィン博士は素子に、ロシア語をどこで勉強したかということや、誰が教授だったかときいた。そこへ、物かげになっているドアのところから、洋装した一人の日本婦人が出て来た。非常に小柄で、やせて、小骨の多い小鳥のようなからだつきだった。パルヴィン博士が、

「わたしの奥さんです」

と紹介した。

「どうぞよろしく」

夫人は、スカートの前に両手をそろえて、ごく日本風のお辞儀をした。毎日あらゆる種類の人々を応待し、観察し、それを仕事として暮している婦人らしい笑顔と身ぶりで、夫人は博士のわきにかけた。この夫婦がならんでかけた光景は現実ばなれがしていた。灰色の大きい眼玉が黄色っぽく溶けかけている巨人のような外国人の主人。