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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
ないというふりを逆用して画料もじりじりとあげて来たにちがいない。
郊外の家へ帰って来て、素子に、砂場嘉訓に貰った不思議な餞別の話をしているうちに、伸子は鼻の髄が酸っぱいようになって来た。
「よくて、わたしたちはね、あっちへ行って決して活躍しないのよ。いい? あっちで有名人になろうとするなんて、こわいことだわ」
伸子は、何かから自分たちの生活を防衛するような眼つきをした。
「ただどっさり観て来るの、感じてくるの、ね? それでいいでしょう?」
同時に素子としてはどうしてもロシア語をしっかりものにしてかえって来なければならない。伸子は、素子の沈黙のなかに、その主張を感じた。
いよいよ荷物を運び出す日になった。日本橋の素子の従弟のところから、若いものを四人よこしてくれた。働きなれた人々の手で家じゅうは思ったよりずっと簡単に空っぽになった。そして、最後のトラックが駒沢の家の門から出て行った。手伝いの男たちもそれに同乗してゆき、ふとん類もつみ出した伸子たちは、すっかり建具のとりはらわれてがらんとした縁側で番茶をのんだ。とよはそのまま駒沢の奥の実家へ帰り、伸子たちは、今晩、老松町の裁縫屋の増田のところへ泊ることになっていた。