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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「さっきお話ししました、私の友達。もう伺うと思うんですけれど――もう少しお邪魔していてようございましょうか」

「そうそう。――かまいませんよ」

伸子は、お茶をいれに立った。このロシア語の稽古では、浅原蕗子が本体で、伸子はおしょうばんの形であった。素子の友達が、同じ専門学校の後輩である浅原を紹介して、ロシア語を教えてほしいといって来たとき、素子も伸子も、大柄でおとなしくて口数のすくないその若いひとが、どうしてその勉強をしたいのか、よくのみこめなかった。蕗子は、その専門学校では国文科の上級にいた。はじめて蕗子が来たとき、素子がいくらか皮肉にからかうように、

「理由がないわけではないんでしょう。私なんぞにはいえませんか」

笑いながら問いつめても、蕗子は、すこし顔をあからめて居心地わるそうにほほえんでいるだけで、何ともいわなかった。そんなとりなしも、蕗子の場合には、いこじには感じられず、ふくらみのある人柄が印象された。蕗子は土曜日ごとに、午後の一時間半、通って来ることにきまった。蕗子が教科書を揃えるとき伸子も自分の分を買って来てもらった。

翻訳をはじめてから、素子はちょいちょいした相談相手としてフィリッポフというロシアの人と知りあいになっていた。