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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
小石川の閑静な高台のその家の客間は、やはりせまい日本座敷を洋風につかっているのであったが、電燈には絹のシェードがかけられて、ふすまぎわにどっしりした新しくない安楽椅子が置いてあった。そこは、黒ずくめの服装の堂々とした母夫人の場所で、ワーリャを訪ねて来る素子や伸子なども母夫人は家の客としてもてなし、伸子とは英語で話した。
ワーリャ自身は画家であった。栗色の厚いやわらかい髪をおかっぱにして、眉まで前髪が切り下げられている。見事な二つの茶色の瞳だった。小柄だが、肉づきのしっかりしたワーリャの顔だちには、あたたかい深みがあった。話していて、ちっとも外国の婦人という気がしなかった。ドイツのひとを良人にして、幸福に生活していたのに死に別れたという話もきいた。ワーリャと素子とが、二階の書斎へ行って調べものをして来る間、伸子は客間に母夫人と残っていた。ロシアの音楽やオペラの話をするとき、年とった母夫人のいかめしい顔に生気がよみがえって、まるで昨夜、その華やかな棧敷席にいたかのようだった。日本にも数年前にアンナ・パヴロバが来て、伸子は「瀕死の白鳥」の美しさに感銘されていた。