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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「自分の細君のことをそんな話しかたで話すなんて――お母様の趣味? そんなこと――」
伸子は、肩でぶつかってゆくようにいった。多計代は黙った。そして、とりあげて見ていた写真を、テーブルの下にある手箱の中へしまいはじめた。
一月ばかり前に伸子が来たとき、多計代は黒い瞳を機嫌よい亢奮でかがやかせながら、
「――越智さんは純粋な人だねえ」
といったことがあった。
「そうお?――どうして?」
うたがわしそうな伸子のききかえしにこだわらず、多計代は、
「僕が、もし純子と結婚していなかったら、きっと奥さんに求婚したでしょう、だって――」
そういう多計代のこだわりのない満足らしさが、伸子をおどろかした。
「だって――」
じゃ、お父様はどうなるの? 伸子の心に声高くその反問が響いた。
「ありえないじゃないの……そんなこと!」
まばたきがとまったような表情になった娘をちらりと見て多計代は、
「だからさ」
といい添えた。
「ただ、そうだったろう、というだけの話なのさ」
けれども、越智のある厚かましさが伸子の胸に鋭く深くきり込まれた。多計代はそう感じていないらしいけれども、そんな越智の言葉は、母をほめているようで、ほんとは母も父も侮辱しているところがある。