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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「なに読んでるの?」

「アラビアン・ナイトでございます」

つや子は、左右にたらした短い編下げの頭をふるようにして、

「お姉ちゃまア」

と伸子を見あげた。

「ここへ坐って! あったかよ」

伸子は、ふとんと同じメリンスしぼりのねまきを着ているつや子を半分自分の膝によりかからせた。

「つや子ちゃん、唐辛子、ぬいだんでしょう? だからゼーゼーになったんでしょう?」

よわいつや子は冬から春にかけて、いつも赤い毛糸でこしらえた下着をきせられていた。つや子ちゃんの唐辛子は佐々の名物で、小学三年になったつや子はそれをきまりわるがった。

「僕、もう唐辛子きないでいいのよ、ずっと前ぬいだんですもの」

兄たちばかりのなかに育って、つや子は僕、僕、といった。蒲団のまわりに、南京玉の箱や色紙がちらばっている。賑やかな日向の色どりの中につや子の稚い顔は蒼ぐろく小さかった。

「大きいお兄さまは? お留守?」

「うん」

「おかえりになりますでしょう。飯倉へ御電話かけましたから」

お志保さんは、飯倉という響を何となし特別にいった。その伯父の家には冬子と小枝という従妹たちがいて、和一郎はよく泊りがけで行っているのであった。