轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

にじゅういち

二十一

坂口 安吾

「現代文学 第六巻第九号」1943(昭和18)年8月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,877 字 · 21 页

青空文庫

僕のバケツがカラになると、待っていて自分のバケツを差出すのだった。そのバケツを手渡す時の一瞬、まさしく一瞬、なぜなら、娘はすぐ振向いて逃げ去ってしまうから、その瞬間の娘の眼に僕は生れて始めて男女の世界というものを痛烈に見たのであった。その一瞬、娘は僕の顔を見る。「うるおい」とでも言うより外に仕方のない漠然たる一つの生命を取去ったなら、この眼はただ洞穴のような空虚なものであり、白痴的なものであった。生命よりも、むしろ死亡のむなしさに満ちていたことを、思いだすのは間違いであろうか。僕は娘が好きであった。だから、この一瞬の眼は、僕の全部をさらいとる不思議な力であった。逃げ去る娘を茫然と見送り、幸福な思いのために暫時を忘れるのであったが、僕の神経衰弱は急速に悪化した。一行といえども読書ができぬ。一字一字がバラバラで、一行をまとめて読みとる注意力がつづかない。意識は間断もなく分裂、中断、明滅して、さりとて娘の姿を意識の中でとらえることも出来ない。

母に願って娘と結婚させて貰おうか、と考えた。けれども悟りをひらいて偉大なる坊主になろうという時であるから煩悶した。