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はたちのエチュード
二十歳のエチュード
原口 統三
原口統三『二十歳のエチュード』。同一底本的分册已合并为一书。收入:二十歳のエチュード、初期詩篇。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,578 字 · 125 页
*22
過去という、忘却の靄霧に包まれた森の奥深く迷いこんで、郷愁の涯ない小径を辿るわれわれの眼に、しだいにそのおぼろげな姿を、立ち罩めた霧の中から現わしてくる。黒々と濡れた樹々の幹。
光と闇との不思議な交錯が織り成す、あの懐しい人々の影。
「窓蔭に流れる四季」――この、短かった僕の生涯の自叙伝によって、僕は、過去の事物と共に、文学にもまた訣別を告げたのではなかったのか。九・三〇
*23
詩人。――僕は「社会」に飛び出した。文学史家の寝ぼけた目が、得意そうに見送って、こう呟いているのを冷笑しながら。――「屋根裏で、韻をひねくってる時代はもう過ぎたのさ」と。
いくらでも、だれにでも、己の身体を切り売りする――僕は気前のいい売笑婦だった。社会のあらゆるごみ溜に、僕は鼻面をつっこんだ。警察と、犬殺しが、僕の跡を躍起になって追い廻す――捕まるはずがあるものか、どこに寝ようと、ほっつこうと、僕はやっぱり屋根裏に住んでいたのだ。けれどもその窓は高すぎた。神様よりもよく見えたのだ。お澄まし顔の紳士たち、挨拶じょうずの奥様方、は、僕の眼の下で慌てたが、けっして逃しはしなかった。