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にじゅうしんぞう

二重心臓

夢野 久作

「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页

青空文庫

「まあ。あなた馬鹿ね。あたし今でも貴方のものじゃないの。この上に妾にどうしろって仰言るの……」

「ウ……嘘でもいいから……オ……俺の妻になったつもりで……俺に仕えてくれ」

「あら。厭な人。あなた妾を恋して、いらっしゃるのね」

轟氏は寝椅子からズルズルと辷り落ちてペッタリと両手を床に支える。乞食のようにペコペコと頭を下げる。

「そ……そうなんだ。タ……助けると思ってこの俺の思いを……」

呉羽、椅子の背中に掴まったまま、仕方なさそうに身を反らして高笑いする。

「ホホホホホホホホホホホ可笑しな方ね。ホホホホホホホホ……」

その笑い声の中に電燈が消えて、場内が真暗になっても、笑い声は依然として或は妖艶に、或は奇怪に、又は神秘的にそうして忽ちクスグッタそうに満場を蠱惑しいしい引き続いている。

そのうちにソノ笑い声が次第に淋しそうに、悲しそうに遠退いて行って、やがてフッツリと切れるトタンに舞台がパッと明るくなり、第二幕の第二場となる。

呉羽の姿は見えず。黒っぽいモーニングコートに縞ズボン白胴衣の轟氏がタダ独りで、事務机の前の廻転椅子に腰をかけて、金口煙草を吹かしながら一時二十五分を示している正面の大時計を見ている。