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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
前座は貴様か、貴様の娘でなくちゃ御免蒙るよ」
「それもよかろう。しかしまだ見物人が居らん。一人頭千円以上取れる会員が、少くとも二三十人は集まらなくちゃ、今まで貴様にかけた経費の算盤が取れんからな。とにかく油断するなよ」
「ハハハ。それはこっちから云う文句だ。貴様が金を持っている限り、俺は貴様を生かしておく必要があるんだ。俺はまだ自分の弗箱に手を挟まれる程、耄碌しちゃいねえんだからな……ハハンだ」
「文句を云わずにサッサと帰れ。俺は睡いんだ」
轟氏、生蕃小僧が出て行った窓をピッタリと閉め、床の上の足跡を見まわし、葉巻に火を付けながら何か考え考え歩きまわっている中に、微かな電鈴の音を聞き付け、
「ハテナ。電話かな」
とつぶやきながら廊下へ出て行く。入れ代って大きな白い手柄の丸髷に翡翠の簪、赤い長襦袢、黒っぽい薄物の振袖、銀糸ずくめの丸帯、白足袋、フェルト草履という異妖な姿の呉羽が、左手の扉から登場し、奇怪な足跡に眼を附け、一つ一つに窓際まで見送って引返し、机の上の小切手帳を覗き込んで何やら首肯き、唇をキッと噛んで部屋の中をジロジロ見まわしながら考えている中に突然、ポンと手を打合わせてニッコリ笑い、残忍な眼付で入口の扉を振返りつつ、机の上の短剣型ナイフを取上げて素早く帯の間に隠すところへ、電話をすました轟氏が帰って来