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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
その幕の中央には眼も眩ゆい黄金色の巨大な金文字で「天川呉羽嬢へ」「段原万平」と刺繍してあった。
万雷の落ちるような大拍手、大喝采が場内を狂い渦巻いた。ビュービューと熱狂的な指笛を鳴らす者さえ居た。
そうして先を争う蛆虫の大群のようにゾロゾロウジャウジャと入口の方向へ雪頽れ初めた。
「シバイダ……シバイダ……」
「ドコマデモ徹底的な写実劇だ」
「スゴイスゴイ深刻劇だ」
「……バカ……そんなのないよ。怪奇心理劇てんだよコレア……」
「ああスゴかった」
「ステキだった」
「あすこまで行こうたあ思わなかった」
そうして又、思い出したように方々から振返って拍手の嵐を送るのであった。
しかし、その大勢の中にタッタ二人だけ、拍手しない者が居た。それは正面、特等席の中央に居る江馬兄妹であった。
江馬兄妹はそこに作り附けられている人形使節か何ぞのように、無表情な両眼を一パイに見開いて、幕が降りてしまった舞台の中央を凝視していた。満場の人影が残らず消え失せてしまった後までもまだ揃って頬を硬ばらせたまま瞬一つせず、身動き一つしないまま一心に真紅の幕を凝視していた。