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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
復活呉服橋劇場第一夜の演題にこの神秘邪妖探偵劇『二重心臓』を筆者が推選した理由は実に懸ってこの一事に潜在しているので、現代社会の裏面の到る処に波打っているであろう邪妖怪『二重心臓』の鼓動が、如何にしてこの奇怪なる大犯罪事件を描き現わしたかという真相、経過を諸君の眼前に展開しあらわす時、諸君の脈搏を如何に乱打させ、諸君の血管を如何に逆流させ、全身を粟立たせ、頭髪を竦立せしめるであろうか。凄愴感、妖美感に昏睡せしむるであろうかは、筆者の想像の及ぶところでないであろうことをここに謹んで付記しておく。九月 日江馬兆策識」
なおそうした記事の中央に在る血潮の滴る形をした真赤な?符の輪の中に髪を振乱した呉羽嬢がピストルを真正面に向けて高笑いしている姿が荒い網目版で印刷してあった。
「まあ。お兄さま」
「おお。美鳥。御機嫌よう」
「まあ……今夜の入場者タイヘンじゃないの。コワイみたいじゃないの――」
「ウン。呉服橋劇場空前のレコードだよ」
「あたし此席へ来るのに死ぬ思いしてよ。正面の特等席て云ったんですけど、入口から這入ろうとすると押潰されそうになるんですもの。ヤット寺本さんに頼んで楽屋口から入れてもらったのよ……ああ暑い……ずいぶんお待ちになって……」